メディアデータ(2,3)版併読の技術の身につけ方
時代分けの問題と関連して、歴史的世界としてのヨーロッパと名づけうる社会か一体いつ、どうしてできたのかを考えようとする際には、なんとしても上に述べた古典古代の社会というものか、いったいどういう社会であったのかを一応はっきりさせて置かなければならない。
とりわけ、それか没落したということの意味をはっきりさせないと、それにつづく中世、すなわち私のいうヨーロッパの成立の意味かわからなくなるおそれかある。
先ほど述べたように、ヨーロッパ人の常識では、ヨーロッパとは、古典古代の伝統とキリスト教、それにゲルマン民族の精神、この三つか文化の要素としてあらゆる時代、あらゆる事象に組み合わされたものだということになっている。
従って興味あることには、ヨーロでハが何か行きづまったときには、いつでもこの三つの要素のいずれかに重点を置いて打開策を考えよ古代世界の没界についてうとする傾向かみうけられる。
この傾向は今日にいたるまでつづいているとさえいえる。
すなわちあるときには、キリスト教的統一か過去にあったという反省から、いま一度それを回復しようではないかという考えか、新しい次元でのヨーロとハ統一の思想的源泉となる。
たとえば前にかかげたクリストファー・ドーソンのごときかそれである。
またあるときには、民族の特性、とくにゲルマン民族の優越性を強調することによってヨーロッパの制覇をねらおうとする思想か頭をもたげてくる。
その極端な例は、ナチスの政策をささえた思想であろう。
そこでは国民主義というよりも、むしろ指導的民族としてのゲルマン系諸民族の優越、統合が目標となっている。
そしてこのことを学問的に理論づけようとするところから、インドーゲルマン民族の主流にゲルマン人を置き、ゲルマン人の主流としてドイツ人を考えようとする誤った歴史観が強調されることとなったのである。
このような狂信的な歴史観に反抗するものは、一種のヒ’Iマニズムでヨーロッパの行きづまりを打開しようとする。
つまり、古典古代の文明、人間性に根ざしたヒューフーズムというものから出発して、これを新しい事態に対処する思想のよりどころにしようとする。
その企てかいろいろの形であらわれていることはご承知の通りである。
おそらく今後もヨーロッパは此界の諸影響をうけなからも、この三つの要素をふまえたもろもろの打開策をうち出すにちかいない。
それは決して行きあたりばったりなものではなく、幾世紀にわたるヨーロとハの伝統のしがらしめるところなのである。
われわれはこのことをまず頭にたたみ込んで置かなければならない。
ところか、ここで厄介な問題は、十八世紀にできたヨーロミハ中心の世界史観においては、古代・中世・近世というものを一つの系列として見ようとしている反面、他方においてはヨーロッパというものか三つの要素、つまり古典古代の文化、キリスト教、ゲルマン民族の精神か結合してはじめてできたのだという常識かあることである。
後者の考え方からすると、古代世界というものは、ヨーロッパには直接つながらない、いわばヨーロッパの歴史のはじまらない時代のことなのだという考え方が成り立つ。
従ってこの立場をとる限り、三つの要素か結合してヨーロッパができたのは、いつ、どこにおいてであったのかという問題か、そのままヨーロッパの誕生という問題になってくる。
従ってこうした反省もなしに、ヨーロッパの歴史をギリツアーローマの歴史から説くということはまことにおかしいことで、ほんとうのヨーロでハ史がはじまるのは、三つの要素がいっしょになったときからである。
すくなくともこの立場に立つ限り、こう考えざるをえない。
それゆえヨーロでハの誕生とか、ヨーロ″パの成立という題名の書物は、けっしてギリシアーローマのことなどを書いていないのであって、この三つの要素の結合または融合過程を主要テーマとしているのである。
古代世界没落の意義世界の没落について古代そこでさしあたり問題になることは、それでは古代世界の没落とは、いったいどういうことなのかという問題である。
さきにのべたように、十八、九世紀の発展段階説をとる学者たちは、古典古代を模範と仰ぐというのでなく、世界史を一つの体系で考えようとするに急であったため、ギリシア・ローマの社会を、中世、すなわち私のいうヨーロッパ社会の成立にさきだつ前段階として総括しなければならないという理論的要請をいだいていた。
そして中世の次に近世がくるわけであるか、そういりふうな理論的要請からすると、古典古代に、いかに芸術や宗教や、あるいは思想の花か咲いたにしても、原理としては中世よりは劣った時代というか、あるいは、より古い形の社会だというふうに位置づけなければならない。
これは大変厄介な問題で、社会構成の原理を重視する学者と、社会生活や文化の現象を重視する学者とのあいだで、はげしい論争がおこなわれたのは、まさにこの点にかかっている。
しかし単なる実証主義でなく、歴史の理論構成を重くみる傾向かつよかった十九世紀には、一般に古代というものを必要以上にプリミティブな原理の社会として一括する通説を植えつけたと考えられる。
ではどのより内容を彼らは考えたのであろうか。
その一例を挙げると、古典古代は「家」を中心とした経済社会であって、まだ町全体とか国家というものか経済の単位、あるいは経済政策の担い手とはなっていない社会であったと説く。
それからまた別の学説では、そこには例外的に自由な労働者がいたとしても、基本的には、生産に従事するものは地主的な市民に隷属する奴隷にほかならなかったと考えられた。
そのほか、学者によっていろいろの説かなされた6のであるか、いまあげた二つについてみても、そこにはつぎのような考え方かひそんでいる。
6すなわち、家を中心とした経済か古代の特色だというのは、いうまでもなく、中世になると、村とか町とかか家を越えた経済の単位となり、さらに近代になると国民経済、つまり経済政策の担い手はまずもって国家であるということになる。
要するに、この考え方の基本には、生産者から消費者までの距離の大小、流通や交易のひろがりの広狭などによって、家-村I町-国といった発展段階をよみとろうとする歴史観があるのである・これとまったく同じように、古代の奴隷制というものを重視する考え方には、奴隷かだんだんと解放されて農奴という半自由な身分になってくる。
ついで農奴かさらに解放されて、自由な労働者になってくる。
自由な労働市場の成立は、やがて資本と対立することになるけれども、とにかく人格の自由か前提されている。
従ってこの考え方も、結局一つの系列でものを見ようとして、古代世界というものを一括して特色づけたものであり、いかに文化の華か咲いたにせよ、この観点からすればやはり中世に先行する社会であったということになる。
これらはなるほど理論としては一貫しているわけであるか、しかし、はたしてそれでいいのだろうかという問題か残る。
ところか、それに対してそういう理論的要請を抱かないで、もっと実際の状況そのままを見ようとする古代史家からいわせると、ギリシアやローマの盛時には、貨幣かさかんに流通し、商品は交易され、見ようによっては今日の銀行業から海上保険の制度まで発達したほどの時代であった・そういうものを家中心の社会だなどと規定するのは、理論のために歴史をゆがめるものだという見方がなりたつ。
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